Interview

一番自分らしいモデル

Sep 22, 2021

日本を代表するプロダクトデザイナー深澤直人が、ISSEY MIYAKE WATCHとの仕事をスタートさせたのは、2005年の「TWELVE」(トゥエルブ)からだ。

「時計のデザインは専門領域の世界です。私は1980年にセイコーエプソンに入社しましたが、衝撃だったのが時計デザインにおける寸法が、1㎜が100で、1が1/100㎜ということ。これだけの精度で作り込んでいくデザインは他にはありませんから、大きな経験になりました。そのためISSEY MIYAKE WATCHからの依頼にも、“時計デザインのプロ”として立ち向かうことができました。ISSEY MIYAKEの服はスペシャルなものですから、私としてもISSEY MIYAKEというブランド自体を表現する時計にしたいと考えた。いわゆる“時計の世界”に収まるのではなく、ブランドを感じ、イメージを共有できるデザインを目指しました」

深澤が時計デザイナーとしてキャリアをスタートさせた‘80年代は、腕時計は実用品として生活に欠かせないものだったが、現代はむしろ特別な存在になりつつある。役割が変化した時計にデザイナーとして立ち向かうにあたって、何を意識したのだろうか?

「腕時計は“身に着ける唯一の機械”といわれてきました。現在は時刻を知る道具としてスマートフォンが存在しますが、それでも“身につける機械”となるとやはり腕時計しか存在しません。さらには時刻を知る役割以上に、装身具であり嗜好品でもある。単なる機械であれば機能に添ってデザインすればよいのですが、腕時計はそれだけで不十分。装身具としての役割を満たすには、はっきりとコンセプトを立て、その形を追い込んでいく必要があります。ましてやファッションブランドと組むということは、時計のデザインに対しても、別方向からの視点が求められる。そこを理解する必要はありました。粋なアイデアを小さな領域で表現する試みは、2005年の『TWELVE』で実現できたと思います。ちょっと常識破りの驚きがあったんじゃないかな」

深澤は2020年までに2005年の「TWELVE」、2006年の「TRAPEZOID」、2011年の「GO」の三作品を発表しているが、一番自分らしいモデルとなると、やはりこの「TWELVE」だという。

「そのころは、すぐには気付かないハッとさせるデザインを考えていました。『TWELVE』ではアワーマークの代わりにガラスを12角形にし、ベゼルの内側も12角形にしました。さらにISSEY MIYAMEのロゴマークは針の上に配しています。時計会社にいたわけですから、こういった形を製造するのは簡単なことではないことは理解しています。時計として完成させるには、技術とデザインのどちらかが妥協するのではなく、両者の歩み寄りが大切になる。『自分のデザインどおりに設計してほしい』では只のわがままになってしまいます。これは実現できるんじゃないかなというレベルを判断しながらデザインしていきました。しかし後から聞くと、それでも相当苦労したようですね。例えば12角形のガラスは、加工が難しいだけでなく防水性を高めるのも困難だったそうですし、針の上にロゴマークを入れるために針の幅を太くしましたが、こうすると針を回すためのムーブメントのトルクが足りなくなるので軽量化のために針の素材を変えています。シンプルなデザインですが、時計をよく知っている側からすると“嘘じゃないの!”と言いたくなるくらい難しいことをやっています」

アワーマークもないシンプルな時計だが、ある瞬間に12角形が時刻を知る手がかりとなっていることに気が付く。その驚きこそが「TWELVE」の楽しさ。だから発売から15年たった現在でも、揺るがぬ人気を集めているのだ。

(インタビュー・文=篠田哲生)

DESIGNER

深澤直人

深澤直人 | Naoto Fukasawaデザイナー

1956年山梨県生まれ。セイコーエプソン、ID Two (現IDEOサンフランシスコ)、IDEO東京オフィス立ち上げを経て、2003年にNAOTO FUKASAWA DESIGNを設立。
人の想いを可視化する静かで力のあるデザインや思想に定評があり、国際的な企業のデザインを多数手がける。電子精密機器から家具、インテリア、建築に至るまで手がけるデザインの領域は幅広く多岐に渡る。
英国王室芸術協会の称号を授与されるなど受賞歴多数。2018年、「イサム・ノグチ賞」を受賞。多摩美術大学教授。日本民藝館館長。

NAOTO FUKASAWA DESIGN

  • Tako / maruni Photo by Yoneo Kawabe
  • team-demi / PLUS
  • Ayana / B&B Italia
  • Harbor / B&B Italia
  • Pao steel pendant / HAY