COLUMN
Satoshi Wada about “W”

日本の持つ美しさを見直し、その美意識を世界へと示していく時計のデザイン

2020.03.23

「"カーデザイナーらしい時計"をデザインするのではなく、時計の課題に対して、カーデザイナーが造形家として、どう対応していくかを考えました。とはいえ時計のデザインをするのは初めての経験でしたから、まずは日本の時計市場を知るために、時計店を巡りました。するとどの時計も、"僕を見て"と叫ぶデザインばかりだった。長年暮らしたドイツとの違いに驚きましたが、逆に『この中で最も静かな時計を作りたい』という考えが浮かんだのです」と語るのは、世界で活躍するカーデザイナーの和田智。

しかし、このプロジェクトが始まってすぐに東日本大震災が発生し、日本は大混乱の中から再出発するという難しい状況に置かれる。そこで和田の頭に浮かんだのが、"原点回機"という言葉。単純に原点に回帰するのではなく、原点を見つめる"機会"にするのだ。
「日本の持つ美しさを見直し、その美意識を世界へと示していく時計のデザインとは何か? 原点に立ち、長く使える新時代の美しい機能的なデザインを考えたのです。日本は太陽を重んじる文化であり、蛇の目のように2つの輪が重なりあう日本的なグラフィックや文様を基礎にしました。さらに静寂から一気にパッとひろがる打ち上げ花火のイメージを、インデックスに取り入れています。日出ずる国の美しい時の様相を、時計で表現するのです」

こうして生まれた「W(ダブリュー)」は、2012年に発売されるや、たちまち人気を得た。小径サイズや機械式などのバリエーションを増やしながら、現在もなおベストセラー商品となっている。
「21世紀に入ったころから、白モノ家電や自動車を中心に、何かとデザインが話題になる時代になった。だからこそ僕は本質を語りたい。いわゆるデザイナーズウオッチは作らずに、毎日着けられ、きちんと時間が分かる時計を作ろうとしたのです」

ちなみにモデル名の「W(ダブリュー)」はデザイナーのWADA SATOSHIのWではなく、"I WANT WATCH"という意味が込められている。時計が生まれたころのスタイルを持ち、人々が初めて時計に出会った時代のエモーショナルな感覚を見つめ直す。そういったメッセージなのだ。
「自動車には、メーターという正確性を期すためのデザインがあります。時計でもそういった正確さを連想させるために、針を長くデザインしました。りゅうずを大きくすることで、より機能的に使い勝手を良くし、細部までケースを綺麗に磨き込むために、ラグを裏蓋側に着けています。ケース径は43㎜と大きめですが、可動式のラグなので女性の腕にも馴染む。メタルブレスレットは、コマの可動域を広げることで腕馴染みを高めているのも特徴です」

超一流のカーデザイナーが手掛けた時計でありながらも、極めて機能的に仕上がった「W(ダブリュー)」は、時計の本質とは何かという命題に対する力強い答えなのだ。

DESIGNER

和田 智  Satoshi Wada

和田 智 | Satoshi Wada

武蔵野美術大学卒。84年日産自動車入社。89年、英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート留学。98年、アウディAG/アウディ・デザインへ移籍。「世界でもっとも美しいクーペ」と評されたA5など主力車種のエクステリアデザインを担当しアウディブランドの世界躍進に貢献。2009年アウディから独立し、自身のデザインスタジオ「SWdesign」を設立。カーデザインを中心に、「新しい時代のミニマルなものや暮らし」を提案している。

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