COLUMN
Satoshi Wada about “U”

"静かで美しい未来"を追求した時計

2020.01.10

「2012年に誕生した『W(ダブリュー)』をアダムとするなら、新作の『U(ユー)』はイブ。ユニセックス&タイムレスなデザインであり、時の領域を広げるものにしたいと考えました。例えばインデックスには、ローマ数字を使っていますが、単なるデザインではありません。この数字は数千年前の古代ローマから存在している。これを現代に用いるということは、数千年前のメッセージが、現代へと届いたということ。私はそれをすくい上げ、現代的な表現にして次の時代へと伝えていきたいと考えたのです」と、和田智は語る。

シンプルで端正な「U(ユー)」は、"美しい普通"を追求したのだという。3針モデルで、カレンダーもなし。余白を生かしており、さらにはダイヤルやガラス面のカーブで、神秘的な揺らぎを作っている。

「ハイテクやAIの時代だからこそ、"人間が感じ得る力"を大切にしたい。情緒的な感情を持っているのは人間だけです。ケースのサイドを絞り込んだ形状は、製造過程において苦労しました。"美しい"は100年たっても古くなりません。しかし"新しい"はあっという間に古くなってしまう。技術力が進歩し、驚きやインパクトが要求される時代になっています。だからこそ、カーデザイナー=造形家として、そういう時代に対して、どうやって対処していくかを強く意識しています」

確かに「U(ユー)」を見ていると、そこかしこに美しい表情を見つけることができる。ケースサイドは大胆に絞り込まれているだけでなく、丁寧にポリッシュ仕上げを施している。ラグを裏蓋側に取り付けることによって実現させたのだが、これは可動式ラグと同様に前作の「W(ダブリュー)」にも通じる手法だ。さらにケースの絞り込みによって、正面からりゅうずを見えなくしてシルエットの美しさを強調している。

「競争のための技術革新が繰り返されていますが、それは必ずしも人間のためにはならない。この競争はいつまで続くのでしょうか? こころが置き去りになってはいませんか? 静かで美しい未来像は人々には受けないかもしれません。あらゆる情報や技術を盛り込んだ、混沌とした未来の姿の方が人々の興味を引き付けるでしょう。それでも私は"興奮"ではなく、深い呼吸ができるような静かで美しい未来を描きたい。『U(ユー)』というのは"私小説のような時計"なのです。例えば、私が暮らしていたミュンヘンにある美術館「ピナコテーク・デア・モデルネ」のダイナミックなエントランス空間があるのですが、そこに立っていると宇宙に引き込まれるような、あるいは未来と交信しているような感覚がある。もう一つインスピレーションを受けたのは、パリのオルセー美術館の巨大な時計台。この時計を見ていると、タイムスリップするような感覚になります。こういった記憶が、メッセージとして時計に込められているのです」

時計というのは、正確に現在時刻を示す能力が大切である。しかし時計を見るたびに、色々な記憶やフレーズが交差する時計というのも心が惹かれる。こういった哲学に共感する人に使ってほしい時計である。

DESIGNER

和田 智  Satoshi Wada

和田 智 | Satoshi Wada

武蔵野美術大学卒。84年日産自動車入社。89年、英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート留学。98年、アウディAG/アウディ・デザインへ移籍。「世界でもっとも美しいクーペ」と評されたA5など主力車種のエクステリアデザインを担当しアウディブランドの世界躍進に貢献。2009年アウディから独立し、自身のデザインスタジオ「SWdesign」を設立。カーデザインを中心に、「新しい時代のミニマルなものや暮らし」を提案している。

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