COLUMN
Tokujin Yoshioka about “O”

水というカタチのないものを時計にする。
そんなきっかけから生まれた。

2019.03.08

「水のかたち、透明な時を刻む時計」をコンセプトとして作られた「O」。プロジェクト10周年を記念するアニバーサリーモデルに込められたデザイナー吉岡徳仁氏のメッセージとは?

4世紀ごろのローマ帝国で大きな影響力を持った哲学者であり神学者のアウグスティヌスは、「時間とは神が創造したものである。そして時間には過去、現在、未来がありそれらは人間の意識の中にある」と説いた。時間というのは、太陽や星の規則的な動きから導き出された"概念"であり、人間の意識に住み着いた"哲学"だった。そしてそれを、物理的現象に置き換えたのが「時計」なのだ。

見えないものを可視化させるという試みは、まずは太陽の動きと影を追いかける日時計という形で具現化し、その後、水の流量を使った水時計が広く用いられるようになる。その後、時計の仕組みは機械仕掛けへと置き換えられたが、依然として時間という存在は曖昧なまま。実態は存在しないが、社会の根底を成すルールの一つとなっている。

「O」は、ISSEY MIYAKE WATCH のプロジェクト発足10周年記念モデルで、コンセプトは"クリスタルを手の上に乗せる"。カタチがなく、バンドもなくて、「水のような透明度のある時計」へとなった。実際に「O」を腕につけると、アクリル製のバンド部分は存在を消してしまう。その不思議な曖昧さの中で、時計が浮遊しているのだ。

「この透明感を実現するため、素材には医療用品にも使われるナイロン系のアクリルを採用しました。特殊な粘性を持ちながら変色もしない点が優れています。そして光の反射や屈折率でさまざまに表情を変えるように、意図的にケースの厚みを持たせて、レンズ感や素材感を引き出しています」と吉岡徳仁は語る。

しかもユーザビリティを考慮し、風防を含めた時計バンドと時計本体が分割する構造を考案。そのためバンドに傷がついたとしても、バンドのみを交換すればよい。当初はメンズモデルとして販売したが、時計に見えない不思議な浮遊感や柔らかなフォルムを好む女性ユーザーも多いという。形のない「O」は、時間という概念の曖昧さを楽しむモノなのだ。

DESIGNER

吉岡 徳仁

吉岡 徳仁 | Tokujin-Yoshioka

2000年、吉岡徳仁デザイン事務所を設立。デザイン、建築、現代美術の領域において活動し、詩的かつ実験的な作品は、国際的に高く評価されている。国際的なアワードを多数受賞し、作品はニューヨーク近代美術館(アメリカ)やポンピドゥー・センター(フランス)、ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(イギリス)など、世界の主要美術館に永久所蔵されている。アメリカNewsweek誌による「世界が尊敬する日本人100人」に選ばれている。

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