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光の反射を味方につけたバンドレスデザインがコンセプトでした

Jan 18, 2019

ランダムなVラインカットを施したバンド一体型ウオッチ「V」。光の反射する角度で変化するバンドが特徴のモデルを吉岡徳仁はどう切り取っていったのだろう?

懐中時計全盛の19世紀初頭、小型ムーブメントとペンダントやブローチ、ブレスレットを組み合わせた女性用アクセサリーウオッチが作られていた。これらは時間を知るための道具というよりも、叡智を集めた時計という機械に美しい外装を組み合わせた"知的なアクセサリー"として楽しまれた。 現代の時計も、そういった意味合いがますます強まっている。時刻を確認するだけであればスマートフォンで十分な世の中だからこそ、時間を見る以上にアクセサリーとしての役割が求められる。だからこそ、時計はもっと自由になれるのだ。

「V」は、バンドのデザインからプロダクトを作り上げた稀有な時計である。「不揃いでランダムなバンドの表情が主役となる時計を作ることができないかと考えていました。例えば、金太郎飴のようにバンドを押出成型し、それを断続的にカットしたようなイメージです。「ISSEY MIYAKE」ブランドのPLEATS PLEASEの生地のような雰囲気も感じられるように工夫しました」と吉岡徳仁は語る。

バンドに施されたV字の凹凸加工は、ランダムに配置して光を乱反射させる。構想段階では横縞や三角のコマもあったが、さまざまな組み合わせを試した結果、3種類の凹凸コマを組み合わせることになった。コマはステンレススチールだが、まるでアルミサッシのような無機質さによって、落ち着いた輝きにまとまっている。こうやって生まれたブレスレットの一部に、角形の時計を埋め込んだ「V」は、あくまでもブレスレットが主体であり、そこに時計が収まっている。それはつまり19 世紀初頭に生まれた知的なアクセサリーウオッチと同じということになる。それは実用品という縛りから自由になった、スマートフォン時代の時計らしいデザインといえるかもしれない。

DESIGNER

吉岡徳仁

吉岡徳仁 | Tokujin Yoshiokaデザイナー / アーティスト

1967年生まれ。倉俣史朗、三宅一生のもとでデザインを学び、2000年吉岡徳仁デザイン事務所を設立。デザインや建築、現代美術の領域において活動。代表作には、東京2020オリンピックの桜の聖火リレートーチなどがある。国際的なアワードを多数受賞し、作品はニューヨーク近代美術館やフランス国立近代美術館など、世界の主要美術館に永久所蔵されている。アメリカNewsweek誌による「世界が尊敬する日本人100人」に選ばれている。

TOKUJIN YOSHIOKA DESIGN

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