COLUMN
Tokujin Yoshioka about “TO”

素材を極限まで生かし、
時代に左右されない
オーパーツ的な時計を目指した

2018.11.16

素材本来の良さに着目して、マテリアルそのものの可能性を最大限に引き出すマジック。それが日本を代表するデザイナー、吉岡徳仁の魅力だろう。プロジェクト参加第一弾となった「TO」には、彼の全てが込められている。

針の回転運動によって時刻を表示するという時計の基本構造は、13世紀ごろに生まれたとされる。その構造が現代まで受け継がれているのは、針という形状がとても軽くて加工しやすいため、ムーブメントの小さなトルクでも問題なく動くからである。

しかしその常識を打破したのが「TO」だった。「表層的なデザインを変えていくのではなく、根本的な部分を変えていこう」。それがデザインを担当した吉岡徳仁の考えだった。

吉岡は、ISSEY MIYAKEのブランドコンセプトである「今までにないモノを見たい」という感覚を知っている。時計の何を変え、何を変えないかを考え、時計の歴史を意識しながらデザインを考えていった。

吉岡が思い描いたテーマは、「時代性を感じさせないもの」。イメージしたのはステンレスで作ったディスクで、実際に腕に置いて「こういうものを作りたい」とプレゼンテーションを行った。“時計らしい要素”を抜き出し、再構築していくなかでたどり着いたのが、あえて時計の針を無くすというアイデアだった。さらに現在の時計で使われている素材を使いたいという希望もあった。彼は時計のデザインを手掛けること自体が初めてだった。だからこそ、真摯に時計の歴史や素材を学び、そこからできることを学んでいった。

その結果生まれた「TO」は、インデックスになる溝が掘られた金属塊のケースに、回転ディスクを取りつけて時刻を表現している。言葉では簡単に聞こえるが、そこには"重さ"と"質感"という相反する問題がある。ムーブメントの小さなトルクで大きなディスクを動かすためには、できるだけ軽い素材を使いたい、しかし軽い素材はどうしても質感が劣る。しかし三宅デザイン事務所時代に「マテリアルボーイ」と呼ばれていたくらいに素材を生かしたアプローチを好む吉岡にとって、そこに妥協はできなかった。

「円盤針は技術的なチャレンジでした。プラスチックを加工して作るのは簡単ですが、できれば素材(マテリアル)そのもので作りたかった。あまりデザインが見えず、かつ特殊なものが好きなのです。そこで素材はアルミを採用し、アルマイトなどの金属加工技術に定評のある企業に出向いてお願いしました」。その信念が道を開いた。
吉岡は当時を回想する。「端的に言えば、自分が見たいものを作りたい。今の時計の延長線上にあるものは、今の自分には作る意味がないと思っています。なにかワクワクするものを作る。そこには得てしてリスクが伴います。そこをメーカーと一緒に模索していく作業が大切です」

時計史を俯瞰すると、「TO」が特異な存在であることが分かる。もちろん懐中時計の時代からディスクを使ったデジタル表示式の時計は存在していたが、それらは現在のカレンダー表示と同じく数字を小窓で見せて質感を誤魔化している。しかし「TO」は、そのままズシリと重い金属の塊である。その円盤針の重量感は時計の常識には当てはまらない。
「時代を超えて存在するような感覚です。オーパーツのような時計を作りたかったので、仕上がりにはとても満足しています」それくらい特別な存在なのだ。

DESIGNER

吉岡 徳仁

吉岡 徳仁 | Tokujin-Yoshioka

2000年、吉岡徳仁デザイン事務所を設立。デザイン、建築、現代美術の領域において活動し、詩的かつ実験的な作品は、国際的に高く評価されている。国際的なアワードを多数受賞し、作品はニューヨーク近代美術館(アメリカ)やポンピドゥー・センター(フランス)、ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(イギリス)など、世界の主要美術館に永久所蔵されている。アメリカNewsweek誌による「世界が尊敬する日本人100人」に選ばれている。

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