COLUMN
Ichiro Iwasaki about “f”

なにも決めなくていいし、自分次第でいい。それが時計の究極の魅力なのかなと思っています。

2018.06.08

ISSEY MIYAKE WATCH プロジェクトの17番目のモデルとしてローンチされた、デザイナー岩崎一郎氏の新シリーズ「f エフ」。
発売に先駆けて新モデルの魅力と、彼が思う時計の在り方、デザイン秘話に迫った。

イッセイ ミヤケ ウオッチプロジェクトをどう思いますか?

時計は極めてパーソナルな表現を許容する存在ですから、デザイナーによってデザインの表現や解釈が異なります。このプロジェクトの興味深いところは、そうしたパーソナルな視点を大切にしているところだと思います。デザイナー一人ひとりの解釈にゆだねた視点が前提になっていて、そこにクリエイティブを期待されている。私自身、他のデザイナーの作品を見ていて、そこがおもしろいなと思う部分です。違いだったり、重なりであったり、デザイナーごとのこだわりや視点の振れ幅がこのプロジェクトの魅力だと感じています。はじめは少し私も試行錯誤した部分もありました。しかし、自分が感じる時計らしさをデザインしてよいということだったので、とても興味深くプロジェクトに臨めました。

イッセイ ミヤケ ブランドに対する想い・印象は?

常に実験的で革新的なクリエーションは、絶えることのない動力のような存在です。2016年に国立新美術館で開催された「MIYAKE ISSEY展: 三宅一生の仕事」は私にとって忘れられない展覧会の一つになりました。「一枚の布」を突き詰めることで広がる創造性と70年代から続くクリエイティブの濃度は言うまでもなく圧倒的で、何度見てもまた見に行きたくなってしまうほど感銘を受けました。

デザインをする上で大事にしている部分は? またその理由は?

モノとクライアントにある歴史と、文化的背景に対するリスペクトを大切にしながら、プロジェクトのあるべき姿を対話の中から導き出すことを続けています。私のクライアントがたまたま強くそういう思いにさせるのかもしれませんが、光学機器メーカーのSIGMAであったり、イタリアの家具メーカーのArperや、スペインの照明メーカーのVibiaなど彼らのこだわりや背景を理解していないと仕事にならない部分があるんですね。それぞれの文脈の中でやっぱり変えていい部分と変えてはいけない部分があるのでそこはいつも慎重に進めています。
さらに、私のようにインダストリアルデザインの仕事が軸足になっていると、常に制約と向き合わなければなりません。もちろん、それを乗り越えるのはやりがいを感じますし、プロジェクトは多くの関係者の方と進めていくものですので、人との関わりの中でデザインが完成していくというのが一番の価値です。

どのようなプロセスを経てデザインが出来上がるのでしょうか?

ロジカルに導いたデザインをあるタイミングで一度壊して、異なる視点や感性に頼る判断を意識的に入れるようにしています。ロジックを積み重ねていくと意図や理由が明確なデザインにはなるのですが、そこに終始してしまうのは避けたいところなんですね。それをやってしまうと慣れが生じてしまうし、私自身つまらなくなってくるんですよ。やはりプロジェクトは生き物のように変化していくものですし、プロジェクトによって本質がさまざまに異なります。自然に出る自分らしさは受け入れても良いですが、方法論には当てはめず、その時々で柔軟に対応したり、いつもと違う視点や角度で見てみたり、最後の最後にデザインを変更してしまったり、そうやってジタバタしてると段々とできてくる。そういうやり方をしているので、はじめて私と関わったクライアントは不安になるみたいですが。。。

あなたにとって時計とはどのような存在ですか?

若い頃の自分は時計そのものに憧れていたような気がします。今の自分にとっては「時計はしたい時にして、そうでない時にはしない」というくらいの気楽で身近な存在です。気分、実用、アート、日常、憧れ、ファッション…なんでもいいじゃないですか。良い時計の定義とか答えとかもなくていいと思うんです。何も決めなくていい、自分次第でいい。それが時計の究極の魅力だと思います。
デザインも大事ですが、私は時計のそういったあり方が好きです。
初めて「C」を通して腕時計のデザインと向き合った時にそう感じました。

デザインのインスピレーションはどういった時間、空間、事柄から受けていますか?

個人的な発想というよりも、プロジェクトが求める要素の詰まったデザインブリーフからインスピレーションを受けることが多いです。日本のメーカーだといわゆる企画書のような形式が多いのですが、私が仕事をしている海外メーカーのブリーフは感覚的な言葉が入っていたり、こういう印象にしてほしいなど独特なんですよ。ですからブリーフを受け取る瞬間はいつもワクワクします。デザインのディテールが瞬間的にふっと思い浮かぶことはありますが、日常生活でインスピレーションが湧くというよりも、基本は試行錯誤の積み重ねで定まっていくことが多いですね。
信頼関係ありきですが、私は時間をかけてプロセスで作り込んでいくというアプローチがクオリティーを出すと考えています。与えられた期間のなかで最大限の時間を費やして、設計の制約や仕様変更などをすべてデザインの味方にしていこうと思っているので、変更があるたびに物事がリアルに立ち上がっていくんです。

新作「f」のコンセプトを教えてください

今回の「f」は「3針のシンプルな腕時計」というブリーフがスタートでした。そもそも3針の時計は極めてミニマルなデザインが多い世界です。そこでシンプル一辺倒にやっていっても、もう既に世の中にあるようなものに近づいてしまったり、アイデアの鮮度もうまく出てこないんです。一般的にシンプルな時計というのはそぎ落としていくデザインなのですが、今回の「f」ではそぎ落とすのではなく、わずかにストーリーを足すというデザインをしました。それがam faceとpm faceという時の要素です。

新作「f」で苦労した点は?

「f」というより、私の個人的感覚の話しになってしまいますが、これまで2製品を手がけて思ったのは、先に述べた共通点がある一方で、時計のデザインは他の製品のデザインとは明らかに違う点があるんです。他のプロダクトですと完成形がスケッチや模型からイメージできる範囲内に着地するのですが、時計はなかなかイメージの範囲に落ち着かない。例えば、目盛りの線幅が1/100mm単位で印象が大きく変わるということもありますが、すべてのプロセスにおいて思うのは、時計のデザインはやはり人が腕にはめて初めて完成するものだということです。着用して完成するものだからこそ、腕の中でのデザインのおさまり方をイメージしながらデザインするのが難しさであり、楽しさでもありました。

実際に出来上がった「f」をご覧になってどう感じましたか?

白文字盤のam faceはインデックスの外周の数字は12時を頂点に時計回りに、1、2、3…と並び、内側にpm時間を抱え、黒文字盤のpm faceは外周が24、13、14…となり内側がam時間を抱えているという構成で、ミニマルなバーインデックスにはない個性を表現することができました。わずかに表情のある微細な文字盤のディテールや、腕にしっくり馴染む39mmの少し小ぶりなサイズ感も気に入っています。

手に取ってみた人にどう感じていただけるのか。そのきっかけがデザインのなかに込められているのかが大事だと思いますし、人によって使い方は様々だと思います。男性でも女性でも、手に取る人達がどう感じてくれるのか、それがこの時計の楽しさでもあります。デザインの収まり方は人それぞれでいいんです。

DESIGNER

岩崎 一郎

岩崎 一郎 | Ichiro Iwasaki

1965 年東京生まれ。ソニー(株)デザインセンター勤務の後、渡伊。
ミラノのデザイン事務所を経て帰国後、1995年にイワサキデザインスタジオ設立。国内外の企業と協働し、テーブルウェアや照明器具、家具などのインテリア用品から、デジタルカメラ、携帯電話などの精密電子機器まで、プロダクト全般のデザインを手がけている。グッドデザイン賞・金賞、iF デザイン賞・金賞、Red Dot デザイン賞 Best of the Best、ドイツデザイン賞・シルバーなど、主要国際デザイン賞を多数受賞。
東京藝術大学及び、多摩美術大学非常勤講師。